副業を認める就業規則の基本と重要性
なぜ今、副業を認める就業規則が必要なのか?
「働き方改革」という言葉を耳にする機会が増えましたが、その中で注目されているのが「副業」です。
以前は「会社員は一つの会社で働くもの」という考え方が一般的でしたが、最近では個人のスキルアップや収入アップのために、本業以外の仕事をする人が増えてきました。
このような社会の変化に合わせて、企業も「副業を認める」という選択肢を検討する必要が出てきています。
しかし、副業を安易に認めてしまうと、労働時間や情報漏洩などの問題が発生する可能性もあります。
そこで重要になるのが、副業に関するルールを明確に定める「就業規則」なのです。
副業解禁の背景と企業への影響
副業を認める企業が増えている背景には、以下のような理由があります。
労働力不足の解消: 優秀な人材を確保するため、多様な働き方を認める必要性が高まっている。
従業員のスキルアップ: 副業を通じて得た知識やスキルを本業に活かしてもらうことを期待できる。
従業員のモチベーション向上: 副業を認めることで、従業員の満足度やエンゲージメントを高めることができる。
しかし、副業を認めることには、以下のような企業側の懸念点もあります。
労働時間の管理: 本業と副業の労働時間を合算して管理する必要がある。
情報漏洩リスク: 副業先で企業の機密情報が漏洩するリスクがある。
競合関係: 副業先が競合他社の場合、利益相反の問題が発生する可能性がある。
これらのメリットとデメリットを考慮し、自社にとって最適なルールを定める必要があります。
就業規則における副業規定の役割
就業規則における副業規定は、企業と従業員の両方を守るための重要な役割を担います。
副業に関するルールを明確にすることで、以下のような効果が期待できます。
トラブルの未然防止: 副業に関するルールを明確にすることで、従業員との間でトラブルが発生するリスクを減らすことができる。
労働時間の適正な管理: 副業を含む労働時間を適切に管理することで、従業員の健康を保護することができる。
情報漏洩リスクの低減: 副業先での情報漏洩を防ぐための対策を講じることができる。
企業秩序の維持: 副業が本業に支障をきたすことを防ぎ、企業の秩序を維持することができる。
これらの理由から、副業を認める場合は、就業規則で副業に関するルールを明確に定めることが非常に重要です。
副業を認める就業規則を作成する際のステップ
ステップ1:現状分析と目的の明確化
まずは、自社の現状を分析し、副業を認める目的を明確にしましょう。
現状分析:
従業員の働き方やニーズを把握する。
副業を認めることによるメリット・デメリットを洗い出す。
競合他社の副業に関する規定を調査する。
目的の明確化:
なぜ副業を認めるのか?(人材確保、従業員満足度向上など)
副業を通じて、従業員にどのような成長を期待するのか?
副業によって、企業にどのようなメリットをもたらしたいのか?
これらの点を明確にすることで、自社に合ったルールを作成することができます。
ステップ2:副業許可の範囲と条件設定
次に、どのような副業を許可するのか、許可する条件を具体的に設定します。
副業の種類:
許可する副業の種類(例:アルバイト、業務委託、個人事業など)
禁止する副業の種類(例:競合他社での就業、風俗営業など)
許可条件:
副業が本業に支障をきたさないこと。
企業の機密情報を漏洩しないこと。
労働基準法などの法令を遵守すること。
その他、企業が定める条件
これらの条件を明確にすることで、副業を希望する従業員が安心して働ける環境を整えることができます。
ステップ3:副業申請・承認プロセスの設計
副業を始める際の申請手続きや承認プロセスを設計します。
申請方法:
申請書の提出方法(紙、電子申請など)
申請に必要な情報(副業先、業務内容、労働時間など)
承認プロセス:
誰が承認を行うのか?(直属の上司、人事部など)
承認までの期間
承認基準
明確な申請・承認プロセスを設けることで、従業員はスムーズに副業を始めることができ、企業側も副業状況を把握しやすくなります。
ステップ4:就業規則への具体的な規定の盛り込み
これまでのステップで決定した内容を、就業規則に具体的な規定として盛り込みます。
規定を作成する際は、以下の点に注意しましょう。
明確な表現: 誰が読んでも理解できるような、わかりやすい表現を用いる。
具体的な内容: 抽象的な表現ではなく、具体的な内容を盛り込む。
法令遵守: 労働基準法などの法令に違反しないように注意する。
規定を作成したら、弁護士などの専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
ステップ5:従業員への周知と同意
作成した就業規則を従業員に周知し、同意を得る必要があります。
周知方法:
就業規則の説明会を開催する。
社内イントラネットや掲示板に掲載する。
従業員向けのマニュアルを作成する。
同意の取得:
従業員から同意書を提出してもらう。
就業規則の変更に際しては、労働組合や従業員代表との協議を行う。
従業員への丁寧な説明と同意を得ることで、副業規定がスムーズに運用されるでしょう。
副業規定で定めるべき具体的な項目
副業の種類と許可基準(競合他社での副業禁止など)
副業を認める場合、どのような種類の副業を許可するのか、具体的な基準を定める必要があります。
許可する副業の例:
アルバイト、パートタイム
業務委託、フリーランス
個人事業主、起業
趣味や特技を活かした活動(ブログ、アフィリエイトなど)
禁止する副業の例:
競合他社での就業(情報漏洩や利益相反のリスクがあるため)
風俗営業、ギャンブル関連の仕事(企業のイメージを損なう可能性があるため)
法令に違反する業務
本業に支障をきたす可能性のある業務
副業の種類や許可基準を明確にすることで、従業員は安心して副業に取り組むことができます。
労働時間管理と本業への影響
副業を認める上で、労働時間管理は非常に重要なポイントです。
労働時間の上限:
本業と副業の労働時間を合算して、労働基準法で定められた上限を超えないようにする。
時間外労働や休日労働に関する規定を明確にする。
本業への影響:
副業が本業に支障をきたさないように、労働時間や業務内容を考慮する。
従業員の疲労や体調不良に注意する。
労働時間を適切に管理することで、従業員の健康を守り、本業への影響を最小限に抑えることができます。
情報漏洩リスクの管理
副業を行う従業員による情報漏洩のリスクを管理する必要があります。
機密情報の定義:
どのような情報が機密情報に該当するのかを明確に定義する。
機密情報の取り扱いに関するルールを定める。
情報漏洩防止策:
副業先での情報漏洩を防ぐための研修を実施する。
機密情報へのアクセス権限を制限する。
従業員が情報漏洩した場合の責任を明確にする。
情報漏洩リスクを適切に管理することで、企業の機密情報を守ることができます。
副業による利益の取り扱い
副業によって得た利益をどのように扱うかについても、ルールを定める必要があります。
利益の帰属:
副業によって得た利益は、原則として従業員に帰属する。
ただし、企業が副業を支援している場合は、利益の一部を企業に還元するなどのルールを定めることも可能。
税務上の扱い:
副業によって得た所得は、原則として所得税の課税対象となる。
従業員に確定申告の義務があることを周知する。
利益の取り扱いを明確にすることで、従業員との間でトラブルが発生するリスクを減らすことができます。
副業に関するトラブル発生時の対応
副業に関するトラブルが発生した場合の対応についても、事前に定めておく必要があります。
トラブル事例:
副業先での労働時間に関するトラブル
副業先での情報漏洩
副業が本業に支障をきたした場合
対応策:
トラブルが発生した場合の相談窓口を設置する。
トラブルの内容に応じて、適切な対応を行う(注意、指導、副業許可の取り消しなど)。
トラブル発生時の対応を明確にしておくことで、迅速かつ適切な対応が可能になります。
副業を認める就業規則の例文と解説
副業許可に関する規定の例文
(副業の許可)
第〇条 従業員は、会社の許可を得て、兼業(以下「副業」という)を行うことができる。
2 前項の許可を得ようとする従業員は、事前に会社の定める様式により申請を行い、会社の承認を得なければならない。
3 会社は、次の各号のいずれかに該当する場合、副業を許可しないことができる。
(1) 副業が本業に支障をきたすおそれがある場合
(2) 副業が会社の機密情報を漏洩するおそれがある場合
(3) 副業が会社の信用を毀損するおそれがある場合
(4) その他、会社が不適当と判断した場合
解説:
第1項: 副業を許可する旨を明記しています。
第2項: 副業を行うには、事前の申請と承認が必要であることを定めています。
第3項: 副業を許可しない場合について、具体的な理由を明記しています。
副業申請手続きに関する規定の例文
(副業の申請手続き)
第〇条 副業を希望する従業員は、以下の事項を記載した申請書を会社に提出しなければならない。
(1) 副業先の名称、所在地、業務内容
(2) 副業の開始予定日、終了予定日
(3) 副業の労働時間
(4) その他、会社が求める事項
2 会社は、前項の申請内容を審査し、副業の可否を決定する。
解説:
第1項: 申請に必要な情報を具体的に示しています。
第2項: 会社が申請内容を審査し、副業の可否を決定することを定めています。
副業禁止事項に関する規定の例文
(副業の禁止)
第〇条 従業員は、次の各号に掲げる副業を行ってはならない。
(1) 会社の許可を得ていない副業
(2) 会社の競合となる企業での副業
(3) 会社の機密情報を漏洩するおそれのある副業
(4) その他、会社が不適当と判断する副業
2 前項に違反した従業員に対しては、懲戒処分を行うことがある。
解説:
第1項: 禁止する副業について具体的に示しています。
第2項: 禁止事項に違反した場合の懲戒処分について言及しています。
規定の注意点と解説
自社の状況に合わせて調整: 上記はあくまで例文です。自社の業種や規模、従業員の働き方に合わせて、規定を調整する必要があります。
法改正に注意: 労働基準法などの法改正に対応するため、定期的に規定を見直す必要があります。
専門家への相談: 規定を作成する際は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
副業を認める就業規則の運用ポイント
従業員からの質問対応と相談体制
副業に関する従業員からの質問や相談に対応できる体制を整える必要があります。
相談窓口の設置: 副業に関する相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整える。
FAQの作成: よくある質問をまとめたFAQを作成し、従業員が疑問を自己解決できるようにする。
担当者の育成: 副業に関する知識を持つ担当者を育成し、従業員の質問に適切に対応できるようにする。
従業員が安心して副業に取り組めるように、丁寧な対応を心がけましょう。
副業状況の定期的な確認と見直し
副業を許可した後も、定期的に副業状況を確認し、必要に応じて見直しを行う必要があります。
定期的な報告: 従業員に副業状況を定期的に報告してもらう。
面談の実施: 必要に応じて、従業員と面談を行い、副業に関する問題点や改善点を確認する。
規定の見直し: 副業に関する規定を定期的に見直し、必要に応じて改定する。
定期的な確認と見直しを行うことで、副業制度をより効果的に運用することができます。
副業に関するトラブル事例と対応策
副業に関するトラブルが発生した場合に備えて、対応策を事前に検討しておく必要があります。
トラブル事例の収集: 過去のトラブル事例を収集し、同様のトラブルが発生しないように対策を講じる。
対応策の策定: トラブルが発生した場合の対応策を事前に策定しておく。
関係機関との連携: 必要に応じて、労働基準監督署や弁護士などの専門機関と連携する。
トラブル発生時に迅速かつ適切な対応ができるように、準備しておきましょう。
制度の継続的な改善
副業を認める制度は、一度作ったら終わりではありません。
従業員の意見や社会の変化に合わせて、継続的に改善していく必要があります。
従業員アンケート: 定期的に従業員アンケートを実施し、制度に対する意見や要望を収集する。
制度の見直し: 収集した意見や要望を踏まえ、制度を定期的に見直す。
成功事例の共有: 副業制度の成功事例を共有し、他の従業員のモチベーションを高める。
継続的な改善を行うことで、副業制度をより良いものにすることができます。
副業を認める就業規則に関するよくある質問
副業を認めることによる企業側のメリット・デメリット
メリット:
優秀な人材の確保: 多様な働き方を認めることで、優秀な人材を確保しやすくなる。
従業員のスキルアップ: 副業を通じて得た知識やスキルを本業に活かしてもらうことができる。
従業員満足度の向上: 副業を認めることで、従業員の満足度やエンゲージメントを高めることができる。
デメリット:
労働時間管理の複雑化: 本業と副業の労働時間を合算して管理する必要がある。
情報漏洩リスク: 副業先で企業の機密情報が漏洩するリスクがある。
競合関係のリスク: 副業先が競合他社の場合、利益相反の問題が発生する可能性がある。
副業を認める際の法的リスクと対策
法的リスク:
労働時間に関する問題: 本業と副業の労働時間を合算して管理する必要がある。
安全配慮義務: 副業によって従業員の健康が害されることのないように配慮する必要がある。
情報漏洩に関する責任: 副業先で従業員が情報漏洩した場合、企業も責任を問われる可能性がある。
対策:
労働時間管理の徹底: 労働時間を適切に管理し、法令遵守を徹底する。
安全配慮義務の履行: 従業員の健康状態を把握し、必要に応じて指導を行う。
情報漏洩対策の強化: 情報漏洩防止に関する研修を実施し、機密情報の取り扱いルールを徹底する。
副業による税務上の扱い
所得税: 副業によって得た所得は、原則として所得税の課税対象となる。
確定申告: 副業によって得た所得が一定額を超える場合は、確定申告が必要となる。
住民税: 副業によって得た所得は、住民税の課税対象となる。
従業員に対して、税務上の注意点について周知する必要があります。
副業を認める就業規則の改定タイミング
法改正時: 労働基準法などの法改正があった場合は、速やかに規定を見直す必要があります。
社会情勢の変化: 社会情勢の変化や従業員のニーズに合わせて、定期的に規定を見直す必要があります。
トラブル発生時: 副業に関するトラブルが発生した場合は、再発防止のために規定を見直す必要があります。
まとめ
副業を認める就業規則の作成は、企業と従業員双方にとってメリットのある制度を構築するための重要なステップです。
この記事で解説した内容を参考に、自社に合ったルールを定め、スムーズな運用を目指しましょう。
副業を認めることは、企業にとって新たな可能性を広げるチャンスでもあります。
従業員の成長を促し、企業の活性化につなげていきましょう。
次のステップ:
この記事を参考に、自社の就業規則を見直してみましょう。
弁護士や社労士などの専門家に相談し、より具体的な規定を作成しましょう。
従業員と積極的にコミュニケーションを取り、副業に関する理解を深めましょう。